第56章 菩薩との契約
それから街を出て、一つ、二つと過ぎて行った。そして着いた大きな街。もうじき一月も終わろうとしていた。宿も珍しく一人一部屋取れた。たまにはゆっくりと眠ろうかとそれぞれ別の部屋に入っていく。そんな夜遅くに、雅の部屋に来客がやって来た。
「ン…」
「おい、起きろ…」
「……ぇ?」
そこに見えたのはいつだかに会った菩薩だった。
「あ……菩薩さん……」
「ププ…やっぱおもしれえな、俺の事『菩薩さん』って呼ぶのお前くらいだぜ?」
「…えと、それで?こんな夜中に……どうかしたんですか?」
「いや、もっと驚けよ。天下の観世音菩薩が直々に会いに来てやってんだからさ」
「ありがとうございます……あ……そうだ…」
「なんだ」
「この間…助けてくれてありがとうございます……」
「フ……」
まだ少しはっきりしない頭で菩薩を前にして雅は小さく目を擦った。
「今日は雅、お前に頼みがあってきた。」
「頼み…ですか?」
「あぁ。」
「なんでしょうか…」
「三蔵と、あいつらと離れてくれねえか」
突然言われた別れの頼みに雅の思考回路は別の意味でストップした。