第24章 戻りくる日常
三蔵が明らかに素の心をさらけ出している。灰をジープの外に捨てながらも三蔵はまたも吹かしながら話を続けた。
「この二日間で色々言われた。八戒や悟浄には後悔すると再三言われたし、悟空には意地はってカッコ悪いとまでな」
「…三蔵……」
「雅がいなくなって、八戒に『帰るのを拒まれた』と言われた時には相当ムカついた。直接言えば良いものを勝手に出ていって、紅孩児に身隠れし、挙げ句の果てに帰りたくないと言われる。それも抱いた翌日にだぞ…」
くはっと笑う三蔵の横顔をチラリとみた雅はドキリと胸が高鳴った。そう、あの三蔵が泣いていたのだ。頬に伝わる一筋の涙を隠すようにたばこを吹かし、顔を上げるでもなく、ましてや雅の方をみるでも無く……
「三蔵……」
「情けねえよな…まさか悟空に言われるなんて…」
そう言いながらも流れる涙をぬぐうことはしなかった。
「なんで平気なフリするんだ、寂しい、奪われて悔しいって言ってもカッコ悪くねぇ、嘘吐くなって……」
そこまで聞いた雅はたまらなくなって三蔵の右腕に巻き付いた。
「嘘でも吐いてなきゃ、平気なフリでもしていなきゃ自分自身が保てねぇなんて…糞ダッセェだろうが…」
「……さんぞ…ぉ…」
「雅は一人にするなって言ったけどな…俺だって一人が平気な訳じゃねぇ…ただ、前を向いていないと、行けないんだ」
「解ってる……」
「どうせなにか言われたんだろうが…それに、あのクソガキの事もあるんだろうがな…」
そう言うとたばこを砂地に放り投げる。
「クソガキって…」
「紅孩児の所の、だ。誰が経文と比較してお前が大事じゃねぇみたいになるんだ。」
「三蔵?」
「これと雅は比べる対象になんざならねえよ。」
「解ってるよ…」
「解ってねえよ。解ってんならあんな寂しそうな顔しねえだろうが。」
「…ッ」
「これは俺の師から受け継いだものだ。ただでさえ一つ失っている。それでも今回ほどなにも出来なくなるなんて事は無かったんだよ」
そういう三蔵。雅自身、三蔵に巻き付く腕に少しずつ力もこもってくる。
「ただ、取られて悔しい、それだけだった。いつかは奪い返してやる、そう思っている。でも、いつかなんて生ぬるい事、今回ばかりは言ってられなかった。」
「……三蔵…」
「解ってるのか…雅…」
そういうとそっと腕に絡み付く雅の体を離し、抱き締めた。
