第2章 旅立ち
「……おい」
しかし自分の事とは思っていない雅は振り返ることもなくそのまま涙をこらえて歩いていく。
「おい、待てって言ってんの、聞こえてんだろうが」
「…え?……私?」
「他に誰が居る」
その問いかけでようやく止まった雅。深いあからさまなため息を溢しながら三蔵は、とても迷惑だと言わんばかりに車から降りた。しかし、進んだのは雅の方でなく、母親に向かっていった。
「俺の目の前で命を軽く扱うような言葉は避けろ。」
「三蔵…様、私はそう言うつもりではなく…」
「そうもこうもねぇ。さっき迷惑だっていったな。」
「……あぁ、言ったさ!」
「だったら話は早いな」
「…え?」
「雅!」
そう軽々しくも名前を呼びつけ、三蔵は雅の前まで歩みを進める。しかし一体何の事か解らない雅は立ち尽くしたままだった。
「一回しか聞かねぇから良く聞け」
「…はい」
「危険と隣り合わせの旅になるが、仕方ねぇから俺が守ってやる。一緒に来るか?」
「え…?」
「ただし、この村には二度と帰れない。その覚悟があれば…」
そこまで言うと、三蔵はスッと右手を差し出した。
「俺達と一緒に来い、雅」
状況がつかめない雅。後ろから悟浄や八戒、悟空が近付いてくる。
「俺も大歓迎だぜ?雅チャン!」
「力の使い方なら僕が教えます。」
「行こうよ!雅!」
ざわざわと五月蝿い村人の声などもう、雅の耳には届いていなかった。ゆっくりと三蔵の出される手を取った。
「…フ…おせぇんだよ、バカが。」
「さて、じゃぁ挨拶は、どうしますか?」
「……ッ」
「さっさとしろ、そんなに待たんぞ」
そう言われ雅は母親と兄の元へと向かった。
「私…行くね」
「雅…!!」
「さっさと行きな!清々する!」
「翠藍兄ぃ、母さんの事、よろしくね。今までありがとう、母さん」
そう言うだけ言い、目を合わそうとしない母の横顔を見て雅は出会ったばかりの三蔵達の元へと戻っていった。
「あの…よろしくお願いします。」
そうしてジープに乗り込み長く育った村に、雅は別れを告げ、出ていった。