第2章 白猟【白煙の向こう側】後日談あり
「これから飲みに行かねェか」
部下の私がそうスモーカー准将に誘われたのは事務仕事を終えて廊下に出た時。
どうやら終わるのを待っていたらしい。「良いですよ」とうなづきながら言うと、無言で歩き出した彼が向かう場所はバー。
海軍本部[マリンフォード]では『お酒を飲める店』と言うのは三種類ある。大衆居酒屋と酒場とバー。本部勤務や出入りする海兵で連日賑わい、客足が途切れることはない。
結構な頻度で私と彼は呑みにどこにでも行っていて、二人きりの時は大抵隠語がある。
[二人でバー]とは『夜のお誘い』だ。
呑んだ後は大抵がどちらかの部屋にお泊まりするコース。スモーカー准将とは付き合っているわけでは無いけれど肉体関係はある。それに合わせたベッドや寝具、身の回りの物や衣類など二人で選んだ品が互いの部屋にあるので、交際を通り越した夫婦のような関係。
「デキたら結婚すんぞ」
「えっ!?……プロポーズ?色気無さ過ぎ」
「違ェよ。予約と宣言。定番な指輪と花束くらいは用意するさ」
「抱えるくらいでっかいヤツね!映像電伝虫も持ち歩かなきゃ。してくれたら『裸エプロンでお出迎えしてあのセリフ』やるから!」
「………互いに恥ずかしいヤツか。やったらバカップルじゃねェか」
「あははは!期待半分にしとく」
「ハイハイ」
私達のこんな[事実婚]のような関係は、わりと前からだ。彼が部下をもち始めた時にそこに私が配属されたのが出逢い。
最初は普通に好感を持っていただけ。だけれども徐々に『片思い』になってしまったこの気持ち。それでスモーカーさんがたまにする『性欲処理のための行動』にも傷つくようになったので『告白してその相手に立候補』したのが始まり。彼の気持ちや恋人の地位を求めなかったのでこんな形になっている。
ただ、『責任』なのか『情』なのか───は分からないけども、私と〈こう言う関係〉になってからは他の女性にお世話になったり、気を持つことは……知る限りではない。
(こんな関係になった今も『片思い』してる感じだけど………『女とすること』はほとんど私とだし、色々にさせてくれてるから、実にすごく[願ったり叶ったり]なんだよね)
『優しく私を抱くクセに、愛の言葉は囁いたりしない』それがスモーカーさん。