第2章 初恋の人
夜、壬氏は窓枠に腰をかけて昼間に出会った一人の女官を思い出していた。
歳の頃からして、成長していればあのくらいの背格好にはなっているだろう。
艶やかな黒髪に、紅紫色の瞳、赤い椿のように赤い唇、スラリとしていたが肉付きの良い身体。
顔にホクロは無かったが成長するに連れて出てきた物だとしたら?
幼き頃に出会った初恋の人に想いを馳せて、壬氏は月明かりに照らされて憂いた瞳を閉じた。
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宮官長室にて。
「腕に薔薇の痣のある女官を探して欲しい、と···」
とやや同時期に女官狩りに合い、今では翡翠宮の侍女になった猫猫に再び壬氏が難題を持ち掛けていた。
約二千人の官女を擁する後宮で、1/2000を探すのがどれだけ大変な事か、コイツはわかっているのか?と内心壬氏を罵倒している猫猫に、壬氏は奥の手を持ち掛ける。
白い布に包まれた川芎(センキュウ)の根を机の引き出しから取り出した壬氏。
「探せ出せたあかつきには、これを礼としてさずけようと思っているが、···どうする?」
壬氏は手のひらの上で布を解き、川芎の根を猫猫に出して見せた。
キラン、と猫猫の瞳が輝いたのを、壬氏は見逃さない。