第2章 初恋の人
壬氏付の侍女である水蓮は壬氏の髪を梳かしながらふ、と思い耽る様子に気が付いて手を止めた。
壬氏の表情はまるで恋い慕う相手を想う、憂いを帯びたそんな表情をしていた。
他の女官が見たら、今の壬氏の表情一つで気を失うのは待ったナシだろう。
(あらあら、これは壬氏様にも春が···?)
長年生きて培って来た鋭い女の勘は今も健在だ。
「ふふふ」と、小さく笑みを浮かべながら壬氏に問いかける表情は、まるで母親のよう。
「壬氏様、どうされましたか?何処かご気分ででも」
「···すまない。少し考え事をしていた」
「どなたか、好いた方でも···?」
いつ、誰が!?
睡蓮からの思いもよらぬ質問に、壬氏は心臓が口から飛び出すんじゃないかと言うくらいに驚きを見せた。
「はぁ!?な、睡蓮っ」
肩をビクつかせたと思えば、カウチから立ち上がり睡蓮を見た壬氏。
「あらあらうふふ···、いらっしゃるんですね?」
睡蓮と言えばとても嬉しそうに瞳に弧をかいている。
「違う···アレは、そんなのでは無い···」
睡蓮から分が悪そうに視線をそらした壬氏の頬は、言い逃れ出来るとは思えない程、ほんのりと赤く染まっていた。