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【短編集】悪役令嬢RTA

第8章 番外編・拝啓、サンドラお嬢様


―――夜、旦那様が帰り寝支度を済ませて私達の寝室にやって来た。
「ちょっと出掛けませんこと?」
カンテラと外套を手に言うと旦那様は承服してくれる。

カンテラで足元を照らしながら手を繋いで並び屋敷の前の丘を登って行く。
いつもの場所に行き草の上に腰かければ旦那様もそうした。

「今日はどうした?」
旦那様が言う。
「そういえば最近夜空を見ていないな、と思いまして」
答えれば旦那様は夜闇でも分かる程赤くなる。
私達は時間さえあれば夜は抱き合っていたから。

「今朝、メイドから手紙が来たでしょう?」
「あぁ、あの手紙か」
「あれ、実は私の主人から来た手紙なのです」
「……それはどういう意味だ?」

―――私は今までの事の顛末を話して聞かせた。

「それではお前は本当はメイドなのか」
旦那様の言葉に頷く。
「お疑いならこの手紙の差し出し元に誰か見に行かせてください。きっと私と同じ顔をした娘が働いていますわ」
―――これで終わるんだわ、私の幸せもこんな生活も。
私は旦那様を謀った罪で投獄―――かしら。

「辛かったな……ヨンナ」
だけど旦那様は私の頭を優しく撫でてくれる。
「私、旦那様、……ニコライ様と一緒に居られてとても幸せでした」
涙が溢れた。

旦那様はそんな私の涙を拭う。
「何故過去形なのだ?」
そして心底不思議そうに聞いてきた。

「だって、旦那様はお嬢様を連れ戻されてっ」
私が言えば旦那様はため息をつく。
「『お嬢様』はワシと連れ添うと思うか?」
その言葉に詰まってしまう。

―――サンドラお嬢様が旦那様と連れ添う訳がない。
サンドラお嬢様はあれでエリオット様を愛しておられた……まだ引き摺っているに違いない。
そして今まで生きてきた貴族社会全てを捨ててでも、意にそまぬ婚姻を忌避して逃げ出したのだから。

「思いません」
答えると旦那様は、好々爺とばかりに微笑む。
「ワシは今夜愛する妻と星を見に来た。星と妻の瞳が綺麗過ぎて何も聞こえなかった」
―――それは?!

「『サンドラ』……愛しているよ」
旦那様が私を抱き締める。
「ずっと私という籠で囀る小鳥でいておくれ」
「ニコライ」
旦那様の腕の中で幸せを感じながらちょっと罪悪感を覚えた。

―――お嬢様、ごめんなさい。ヨンナはもうお嬢様に『サンドラ』を返してあげられなくなりました。
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