第16章 ドクターはトターに夏服をプレゼントしたい
翌日。
「あの、レオンハルト……? 距離近くないかな……?」
たまにはソファで仕事をしよう、と執務室のソファに腰を下ろす私の隣には、レオンハルトがべったりくっついていた。今日の秘書はイースチナであるが、私を助ける様子なく自分の仕事だけをしている。
「だってさ? トターって人に夏服あげたのに、まだ俺は貰っていないからさ?」
と言うレオンハルトは、暑いというのに何故か冬服だったのだ。前に私が彼にプレゼントしたものである。
「つまり、おねだりをしていると……?」
「そうだけど?」
レオンハルトの翡翠色の瞳が私をじっと見つめた。そうは言っても、すぐには用意出来ない。何より今月は金欠だからだ。
と説明したところでレオンハルトは諦めてはくれないだろう。モコモコのレオンハルトの冬服が心地いい……じゃなくて、なんとかしなくては。
トントンッ。
「ど、どーぞ!」
そこにタイミングよくノックされる扉の音。私が返事をすると、レオンハルトと同じコータスの男が入って来た。
「レオンハルト、またドクターを困らせているんだろう」そう、レオンハルトの護衛、エアースカーペだ。「いいからいくぞ。仕事があるからな」
「え、あ、ちょっとちょっとエアース! 引っ張らないでよ? いくらロドスの床が綺麗だとしても服が汚れ……」
レオンハルトはエアースカーペに引きずられてようやく執務室を出て行ったのだ。というか連れて行かれたという方が正しいか。
「はぁ……」
私はため息をついた。彼の夏服も近々プレゼントしないと、機嫌を損ねそうだ。
「ドクター、顔がニヤついていますよ?」
そこにイースチナの横槍が入って来た。てか仕事していたんじゃないのか。
「こ、これは、ニヤついてはいないよ……」
私はなんとか顔の表情を誤魔化そうとしたが、イースチナは気にしないとでも言うかのようにまた仕事へ視線を戻した。
平和だ。まだまだ戦いの絶えないこのテラの中で、ここというロドスは。
おしまい