第5章 癒しの尻尾
その日の私は、次々と運び込まれる事務作業に追われてすっかり疲れていたのだと思う。確か、昨日寝ていないんだっけ。いやいや、仮眠はしたはず……それとも三徹だったか?
それ程思考がまとまらないでいる私の前に、赤いヴァルポが入ってきた。
「よう、ドクター。人事部が忙しいらしいから、報告書持ってきてやったぜ」
「ありがとう、キアーベ」
私は報告書を持ってきたキアーベに感謝し、所定の場所に置くのをぼんやりと眺めていた。じゃあまたな、とキアーベがこちらに背中を向けた時、その後ろでユラユラするものに私は目が奪われた。
そして、私はほぼ無意識にとんでもないことを言っていたのだ。
「キアーベ」
「んあ? なんだよ」
「……尻尾を触らせてくれないか?」
「は……?」
キアーベは本当に驚いていたのだと思う。しかしこれは言い訳なのだが、疲れていた私は、相手がどう思ったとか、自分がおかしなことを言っているという思考が停止していたのだ。だからあれ程、理性は回復するようにと言われていたのに。
しばらくの沈黙、だったと思う。私はあまりよく覚えていない。
だがキアーベは、まるでレッドみたいだなと呟きながら私の唐突なワガママを叶えてくれたのだ。ソファに座り、触りやすいように尻尾をお腹の方に出して。
「ありがとう、キアーベ……」
とちゃんと感謝したはずだが、キアーベがなんて返していたか私はもはや覚えていない。ただ覚えているのは、キアーベの尻尾は意外とゴワゴワしていて、それがまた心地よかったってことだけ。
「ううっ……」
「これで満足したか……ってなんで泣いてんだよ、ドクター!」キアーベが私の肩を抱える。「きっと疲れてたんだな! 医療部のとこまで連れてくから、ほら!」