第4章 塗り潰された〇〇
真っ黒なのだ。あれもこれも真っ黒に塗り潰されていて、アーミヤの感染状況やその過程すらも真っ黒に塗り潰してほとんどの情報を得られなかった。得られたのは、塗り潰されているということ、その塗り潰したのは恐らく……。
私は映像を閉じて機械の電源を落とす。パスワードのことまでは覚えていないのでもう二度と閲覧は出来ないかもしれないが今はそれでいいと思った。
私は資料室をあとにした。閲覧室を出たあと、アーミヤが駆けつけてきた。
「ドクター、そこにいらしたんですね。次の航行予定を確認しませんか?」
「ああ、今行く」
それでも私は、この小さな少女のことを信じたいと思った。記憶喪失で頼りない私だが、いつか本当のことを語ってくれるだろうか。
「ドクター?」
「いや、なんでもない。行こうか、アーミヤ」
「はい」
アーミヤの透き通った声だけが、今の事実なのは確かだ。
おしまい