第4章 塗り潰された〇〇
私が記憶喪失になってから随分と月日が経っていたが、やはり記憶が戻ることはなかった。
ただ一つ、記憶を失う前には誰か大事な人がいた気が……と思うのだが、それは曖昧で私には分からない。アーミヤもケルシーもその誰かのことは口にしないし、私にしか知らない誰かなのかもしれない。
だが、それでも少しでも私は記憶を取り戻したいと思い、資料室に引きこもる日を時々設けていた。大抵の情報は端末にあったが、新しくくるオペレーターたちのためにロドスとは何かとか、テラの歴史とか、とにかく知識を豊かにしてもらうために情報が誰でも見られるようにしてある部屋があったのだ。確か正式名称は「閲覧室」だったはず。
その中でも私しか(またはひと握りしか)入れない資料室があった。そこには私が残した大量の資料と研究報告、何気ないメモ書きなどが保管されていて、記憶を失っているとはいえ自分でもギョッとする程の情報がぎっしりと並んでいた。
研究報告に関しては何度か目を通しているがさっぱりで、専門用語だらけで理解は出来なかったが、私はここに来る度にいつも目を通しているものがあった。それは、私自身が残したオペレーターたちについての情報である。
これで少しでもオペレーターたちのことを知り、親密度を高めたいと思っているのだが、気になる情報が見つけ出せずにいた。なぜなのか自分にしか分からないパスワード入力などがいくつも掛かっている情報もあったからだ。
「こんなに厳重に保管して……私は一体何を隠しているのか……」
当てずっぽうでパスワード入力をする中、今日は偶然にも、ロックを解除出来たのだ。よし、あと何個ロックを解除したらいいのかと身構えていると、画面に映し出されたのは。
「アーミヤの情報だ……」
私は一人呟く。私が探していた情報だ。
この資料室にはオペレーターたちが契約の時にサインした原本や、かつて私にしか打ち明けなかった話が手書きで残されていて、それを機械に丸ごと読み込ませて保管されているらしい。時には知らなかった話なども発掘することもあるが、アーミヤという存在は、あんなにも近いのに分からないことが多いのだ。そして、そこに映し出されていたのは……。