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ロドスの日常[方舟]

第3章 レッドの寝顔


「すぅ……すぅ……」
 近づいてみると、うずくまって眠っているレッドの姿だった。彼女は聞いた話だと、森の中でまるで野生児のように生きてきたとのことで、この艦内で過ごすには少し窮屈そうな様子は度々見かけていた。私が声を掛ける度に「レッド、部屋の中は慣れていない」と言ってばかりだった彼女がこうして安心したように眠っている姿を見ると、安堵感が湧いてくる。
「セクハラか」
 突然背後からの冷たい声にビクリとしながら振り向くと、そこにはケルシーの姿があった。彼女はレッドの担当医だったはず。ケルシーのある一定の人たちに対する愛情の深さが、時にその冷淡さを他者に容赦なくぶつけることがあった。
「見ているだけでセクハラなら、私はもう誰とも目を合わせられないな」
 と私は半笑いでそう返したが、ケルシーは少しも笑わなかった。
「これからする気配があったのでな。念の為の警鐘だ」
「それはありがとう」
 ケルシーのこの態度は私が記憶喪失前からこうだったのか、それとも記憶喪失だからそのような感じなのか分からない。だが私はアーミヤを信じている。彼女のことはあまり掴めないことばかりだが、アーミヤが信じている人ならば、私も信じようと思っているところだ。
「言うようになったな」
 ケルシーはそれだけ言って立ち去っていった。ケルシーの言葉はどうにも慣れないところがあるが、悪気がないのだけは私だって分かっている。
 私はもう一度レッドを振り向いた。レッドはぐっすりと眠っている。私はどれだけ、彼女やこのロドスの皆を助けられるのだろう。そう考えるといても経ってもいられなくなり、執務室に戻ることにした。事務作業に戻るのだ。そろそろ次の外勤任務の指揮の指示書も作らなきゃいけなかったな。
 私は各々の時間を過ごしているオペレーターに挨拶を交わしながら休憩室をあとにした。後ろで誰かが私の話をしていた。
「ドクターって、最近宿舎によく来るようになったよね〜」
「あれじゃない? 記憶喪失になってから、早くみんなのことを思い出したいとか」
 どうやら私は、記憶喪失前とは少し人が変わったらしい。

 おしまい
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