第9章 忘れられた子どもたち
捨てた……とはなんちゅー物言いだ。
呆れたようにナルを見たが、あたしは眉を下げて今にも泣き出しそうな麻衣を見た。
「ありがと……」
お礼を聞いたナルは無言でオフィスを出ていく。
「よかったね」
「うん」
麻衣は優しく微笑む。
(すごく心配だった)
初恋相手が、恋をした相手が既に亡くなっていた人。
その現実に麻衣は耐え切れるのだろうかと、何度も何度も心配して何度も『大丈夫?』と聞いた。
その度に麻衣は困ったように微笑んでいた。
心配だったけど、大丈夫そうだな。
あたしは息を吐き出しながら、写真を大事そうにワンピースのポケットに収める麻衣の頭を撫でた。
「行こっか」
「うん」
オフィスを出るとぼーさんがあたし達を待っていたらしく、扉のすぐそこに立っていた。
そしてニヤニヤとしている麻衣を見て彼は不思議そうにする。
「お?なーにをニヤニヤしてるのかなあ?」
「ナ、ナイショ!」
「ほう。それは是非聞きたい。いってごらん」
ぼーさんはニヤニヤとしながら麻衣の頬を摘む。
「やめてよー!結衣、助けてー!」
「ぼーさん、セクハラだよー」
「戯れでーす。セクハラではありませーん」
ムニムニと摘むぼーさんに苦笑していれば、麻衣は痛さに目を閉じながら呟く。
「──あのね、好きっていう気持ちは相手のことを忘れるまで続くんだよ。知ってた?」
大人びたこと言うものだ。
「生意気言うようになったのう」
「でしょ?」
麻衣は言った。
一人でも恋はできるから……と。
それにあたしは何も言えず、でも恋する彼女は可愛いく美しく見えた。
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ー数日後ー
ナルとリンさんがイギリスに帰ってから数日。
オフィスはまだ閉めた状態で、あたしと麻衣はバイトかないという久しぶりの日常を味わっていた。
「あ……豆腐ないや」
買い物から帰ってきてから、あたしは冷蔵庫の中身をチェックしながらメモ帳に無いものを書いていく。
「麻衣ー。明日買い物行くけど、なにか必要なものある?」
「とくになーい!」
オフィスが一時閉まってから、たまにぼーさん達と連絡をしたりとしている。
真砂子とか安原さんとかは会うけど、ぼーさんとは会えていない。