第9章 忘れられた子どもたち
「──え、自主退院!?ってことはナル、今日退院するって自分で決めちゃったわけ?」
「ええ。ナルが退院宣言をしてお医者様も止めなかったというのが、本当らしいんですの」
「まあ、マズかったら医者も止めるでしょうよ。ほんっとワガママよねぇ」
吉見家の事件から半月が経った頃。
調査中に倒れたて入院してしまったナルが退院出来ることになったので、退院の手伝いをするためにあたしたちは現在ぼーさんの運転する車で病院へと向かっていた。
ちなみに、ひと月前に退院した安原さんとジョンは大事をとってお留守番。
安原さんなんて肋骨骨折しているのでコルセットをしている。
「でも、綾子の言う通りワガママだし人騒がせなやつだよねぇ。ナルって」
あたしの呟きに麻衣と綾子が『そうだ』と言わんばかりに頷いていた。
ナルは倒れた時にほとんど呼吸が止まっていた。
病院に着くなり集中治療室に運ばれて、まさしく九死に一生を得たという感じ。
(なのに自主退院……なんでかなぁ)
息を吐き出しながら、ふと思ったことがあった。
珍しくぼーさんが静かなのだ。
「ねぇ、ぼーさん。今日はやけに静かだねぇ。どうしたの?」
「んー?おれだってもの思うことぐらいあるわけよ」
「あー。今回の調査で仕事を休んじゃったから生活費の心配がねー」
麻衣の言葉通りなのかもしれない。
ぼーさんは怪我をしたせいで仕事を休むことになってしまっているから、生活費が心配なのかもしれない。
「そうそう。帰りのガソリン代をどうしようかと……って、おれが考えてるのは金のことだけか?」
「ちがうの?」
麻衣はぼーさんから『ここから歩け』と言われて、慌てて謝り倒していた。
だがぼーさんは最近あまり元気がないし、よくコソコソとジョンと安原と話しているところを見る。
「でもさぁ、ぼーさん最近元気ないじゃん?怪我をしてるせいかもしれないけど、なにやら最近安原さんとジョンの三人でコソコソ世間話ばっかりしてるし、大人しいし」
「オイコラ結衣ちゃんや。大人しいってなんだ、大人しいって。それじゃまるでおれが普段騒がしいみたいだろ」
「え、そうじゃん」
「あのねぇ……。まあ、いいや。取り敢えず元気がないんじゃなくて、思索にふけってんの。渋いだろ?」