第8章 呪いの家
「なむほんぞんかいまりしてん らいりんえこうきこうしゅごしたまえ」
綾子が手を叩いた瞬間、キツネが飛び上がる。
小さく悲鳴が聞こえた途端、ぼーさんとリンさんがあたし達の前に庇うように立った。
それを見たキツネは向きを変え、その視線の先にはナルがいた。
キツネは勢いよくナルへと突進していく。
「ナル!」
ナルは素早く体制を低くしたが、そんな彼にリンさんが叫んだ。
「ナル!やめなさい!」
リンさんの叫び声にナルが反応した時だった。
キツネが勢いよくナルへと突進していき、彼の身体の中へとまるで入るように消えていく。
「ナル!?」
その光景をあたしは口元を抑えて見ていた。
そしてキツネが完全に消えた時、ナルがその場に座り込んで咳をする。
「あ、大丈夫か!?怪我は?」
慌ててあたし達が駆け寄ると、ナルは胸元を抑えながらも冷静に言う。
「……大丈夫だ。栄次郎さんは?」
「あ!」
その言葉にあたしたちは慌てて栄次郎さんを見る。
すると彼は戸惑った様子で周辺を見渡していた。
「……あの、なにがあったんですか?」
栄次郎さんは何も覚えていなかった。
憑依されてる間の記憶全てが無かったのだ。
『──それが、外に出たあとのことはさっぱり……。まさかそんな大事になっていたとは……』
憑依されてる間は記憶が無いものなのだろうか。
そう思いながら、あたしたちは除霊している間撮影していた映像を確認していたのだが、砂嵐になっているだけだった。
「ダメだ、ぜんぶ砂嵐になる」
「映ってないよ。あのキツネみたいなのが出てきた辺りからザーッてなっちゃう」
「霊障でしょうね。テープは動いているようですから。他の計器類は全部針が振り切れています」
「単なるキツネに見えたが、そんな生易しい相手じゃないかもしれんな──と、ナル坊どうした?」
ナルは椅子に腰掛けて具合悪そうに顔を俯かせていた。
「ナル?」
「具合が悪いの?」
「……いや、すこし背中が痛むだけだ」
「さっきぶつけたところ?大丈夫?」
「湿布か何か貼る?」
「いや、たいしたことはない。……悪いが少し寝てくる」
本当に大丈夫なのだろうか。
何処と無く顔色も悪いような気がするが、彼は『気にするな』と言うだけだった。