第19章 偽り
ご飯を食べ終わってトイレに行くと部屋を出て向かっていると、あの女性と会ってしまった。
軽く会釈をすると声をかけられてしまった為、向き合う。
この時、何も聞かずにすぐに立ち去ればよかった。
知りたくもない真実を知らされてしまうことになるから。
何も知らずにあんなことをしてしまったと謝られる。
知らなかったのだから仕方ないと答えると、何か言いにくそうに目を泳がせた。
「宗くん…保科副隊長に聞いたと思うけど……昔、私たち付き合っていて、お互いもう気持ちはないのだけど、会ったらつい昔のことを思い出して、そういうことをしたくなってしまって…。」
「え?……付き合ってた…?」
言っている意味がわからない。
彼は、私が初めての恋人だと言っていた。
彼女が嘘を言っている感じもしなくて…頭が真っ白になる。
何故、嘘をつく必要があったの?
別に誰かと付き合っていたとしても、過去のことだからそこまでは気にしない。
でも、誰とも付き合ったことがないと嘘を言われて、それをこんな形で知りたくなかった。
もういい、もう何も信じられない。
どうしてあんな人を好きになってしまったんだろう。
好きになったことを、後悔なんてしたくなかった。
もう彼に何も期待しない。
もし、彼から話してくれたら許そうと思うけど、あの感じだと何も言わないだろう。
私から聞くなんて、絶対嫌だ。
「そ、そうなんですか。あははっ、何も知らなかったなぁ。嘘つかれてたんだぁ。ありがとうございました、では。」
急いでトイレに行って涙を流す。
彼に嘘をつかれていたから泣いているんじゃない。
何も知らずに彼の隣で笑っていた自分に嫌気が差した。