第18章 須臾
初めてここに来たから、どこがどこなんだかわからい。
だけど、もう嫌だと、ここから消えてしまいたいと、わけもわからないまま走り続けた。
扉を開けて入った場所は屋上だったようで、お昼の青い空が視界いっぱいに広がる。
そのまま空から視線を下に移すと、並んでお昼を食べている日比野先輩と亜白隊長の姿が見えて、邪魔してしまったと思い、謝ってすぐに屋上を後にしようと振り向いて足を踏み出した。
「待て!三浦、どうした?」
恐らく、涙でぐちゃぐちゃになった顔を見られてしまった。
隊長に逆らえるはずもなく、踏み出した足を戻し、隊長と先輩の元に俯いたまま向かう。
何があったのだと問う隊長に、袖でゴシゴシと顔を拭ってから、なんでもないですと顔を上げて笑った。
笑っているはずなのに、先程の光景が頭から離れてくれなくて、またすぐに涙がポロポロと流れて床を濡らす。
「あれ?あははっ、本当になんでもないですから……なんでだろ、止まんないっ……うぅ、あう…なんっ、でも…ああ…うっ、ううっ…たい、ちょお…ううぅ…。」
苦しくて辛くてムカついて…どうしようもなく涙が零れてきて、声を上げながら隊長の胸に縋りついた。
隊長は驚いたがすぐ私の背中を擦ってくれて、私が落ち着くまで待ってくれる。
日比野先輩もオロオロしているようだが、何も喋ってはいなかった。
少し落ち着いてきたので隊長から離れて、濡らしてしまってすみませんと謝る。
涙で隊長の服を濡らしてしまったのだ。
保科を呼ぶかと聞いてくる。
「っ!嫌です!!呼ばないでください!宗四郎なんて、もう知らない…。」
また涙が零れてきてしまう。
俯くと太陽の光に反射して輝くものが目に入った。
訓練が終わってすぐに左薬指にはめた指輪を取る。
隊長に彼の月給がいくらなのか聞いてみた。
この指輪は給料3ヶ月分を遥かに超えたと言っていた。
隊長の答えに口が塞がらなくなった。
そんな金額…私じゃ返せない。
それ以外にもいろいろ出してもらっているのだ。
指輪はそのまま返して手術代だけでもいいだろうか?
待って、彼の浮気なら私は払う必要ない?わからない…。
保科が何かしたのかと聞かれたが何もと返して、2人の時間を邪魔してしまったことを謝り、屋上を後にする。