第6章 貴方は何が好き?
ビアンカは書店の紙袋を抱えて家に帰ると、すぐにリビングのテーブルにそれを置いた。
──ついに、手に入れたぞ。
紙袋から取り出したのは、分厚い、もはや鈍器のような一冊の雑誌。
『世界のコーヒー豆大全』
表紙には、世界各地のコーヒー農園と焙煎された豆の写真が美しくレイアウトされている。
タイトルの横には「豆の種類から焙煎・抽出法まで、これ一冊で極める!」と書かれていた。
まさかこんなジャストミートで刊行されるとは思わなかった。アタシったらツイてる!
「ふふん……これさえあれば」
ビアンカは満足げにページをめくる。
世界各国の豆の特徴が細かく記載されている。産地、風味、酸味の強さ、焙煎の適性、そしてそれぞれの豆がどんな淹れ方に合うのか。
「さて、どこから試していこうかね」
鼻歌交じりにページを繰ると、巻末に気になる記載を見つけた。
──「実際に試せる! コーヒー豆お試しパック付き!」
ビアンカは慌てて付録の袋を確認する。
「おお、ついてるついてる」
小袋に入った各国の豆が、個包装でぎっしりと詰まっていた。
それらはちょうど一杯ずつ淹れられる分量になっており、コーヒー初心者でも気軽に試せるようになっている。
「これなら毎日一種類ずつ試せるじゃん!」
目を輝かせながら手帳を引っ張り出し、すぐにメモを書き始める。
「バージルの好みを探る実験開始」
「淹れ方はすでにカフェ・ジャポーネで確定。あとは豆の種類を絞る」
「よーし、これからが本番だねぇ」
意気揚々とメモを書き終えたビアンカは、台所へ向かう。
まずは第一弾として、ケニアAAから試してみることにした。
その時、ちょうどバージルがリビングに入ってきた。
「……何をしている」
「アンタにコーヒーを出す準備さ」
にやりと笑うビアンカに、バージルはわずかに眉をひそめた。
「……嫌な予感がする」
「気のせい気のせい」
ビアンカは鼻歌を歌いながら、豆を挽き始めた。
さあ、ここからが長い戦いの始まりだ。