第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
紗恵のことだけど。
さっきのをイメージすれば、分かりやすいだろうか?
先ほどの様にパス回しの選択肢がなく、どのみち私が自分で攻めるしか残されていなかったあの戦況…
その確信があったのは私たちだけではない。
相手チームだって、そこまで読んでいたはずなんだ。
“8番は必ずドライブで抜く”ということを。
その確信が、全員の視線を私に向ける要因になった。
だから素直に、“8番が自分で攻める”という正解を与えたその瞬間…
ディフェンスが疎かになった。
けれど、それだけでは不十分だった。
仮にドライブが成功して、そのままゴールに向かってたとしても。
ファウル覚悟で止められるのが落ちだった。
現に相手チームは、ディフェンスの数を増やして私を止めに来たしな?
勝負どきに点を稼げないことは…
ましてやファウルを取ってしまうことは、どうしても避けたかった。
それこそ、こちらのチームの士気を保つためにも…
点を稼ぐ方法はただ一つ。
頭を使うことだ。
だから私は、ボールの移動を簡単に止められることを防ぐために。
パスの仲介を入れる選択肢をとった。
つまり、紗恵はそれを全て読んでいた。
「天の考えていることが分かる」ってのは、言ってしまえばそう言うことだ。
紗恵は私の動向から、“パスの仲介がいる”ということを理解した。
そしたら次に、私がドライブをしたタイミングで仲介に相応しいポイントに走って、ボールが回ってくるのを待った。
「最も可能性が高い」ルートを割り出したんだ、一瞬で。
それが大正解だった。
私も上手くいく確信はなかったんだ。
見えなかったから。
だから、“いて欲しい”って思っただけの場所に向かって、思い切ってボールを出した。
私がやったのはそれだけだ。
だから、仮にそこに誰もいなかったら、ボールは確実に奪われる一択だった。
だけど紗恵は、“いて欲しい場所にいた”。
だから認めるしかないんだ。
あいつには、何もかもお見通しだってことを。
それに私が、たまたま救われたということも。