第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
私とデフェンス2枚…
この“2枚”というのは、ついさっきまで私の目の前にいて、今はやや後ろから追いかけてくる選手のことで、“1枚”。
そして、他の仲間のディフェンスを止めて、私に向かってくる選手で、もう“1枚”ということだ。
つまり、コート上の選手3人が作り出す、1つのルート…
私がバウンズで放ったボールは、そこを通って仲間のもとに飛んで行った。
それと同時に、その3点を結んだその延長線上に。
そのオリーブの髪の仲間はいたんだ。
両の目を私の方に向けて、妖しい笑みを浮かべていた。
ボールを見るために横目で送った視線が、一瞬だけそいつと繋がったんだ。
そいつはまるで、ライフルでの暗殺を図る、暗がりに隠れるスナイパーのように。
相手チームの選手を避けて、私だけを貫くよう真っ直ぐに。
「全ては一瞬で片をつける」。
仲間をも殺しかねない、射抜くような目で見つめてきたんだ。
「ふふ〜ん!」
【菊鶴 紗恵 2年 10番 SF 163cm】
いや違うな。
よく見たらただのドヤ顔だった。
視力落ちたか?
私が、そんなことを考えた一方、
?「取り返せ!今のうちに止めんぞ!!」
その言葉を合図にするかのように。
数秒前まで私に向いていた相手選手たちの足は、真反対に向き始めた。
瞬く間に、紗恵がディフェンスの餌食だ。
けどそうはさせない。
その前に行動を起こすのは、やっぱり私たちなんだ。
他のメンバーも、自分のマークについてる相手選手だけはしっかりと引き留めている。
そいつらの体力をすり減らさないためにも、私たちが早くゴールを決めなければ。
大丈夫。
最後はディフェンスの余地なく決めてやる。
なぜって、ほら…
もうボールと紗恵しか見えてない。