第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
「天!!」
ドライブを開始した私の耳に、真っ先にある人物の声が入ってきた。
それが示すことは。 ・・・・・・・・
間違いなくあいつも、私と同じこと考えてるということ。
そう確信出来れば話は早い。
もれなく点も、早く決めちまおうぜ。
ドライブで駆ける私の方に、ディフェンスに向かってくる数人の選手が目に飛び込んできた。
そうだ、それでいい。
私を止めに来い。
むしろ、そうしてくれないとこの作戦の意味がなくなる。
そして私も、次の一手に入る。
直前、目の前にいた相手選手のディフェンスを、ドライブで破った時の…
その時のドリブルの勢いは落とさないまま。
私は腕の振りと手首の捻りを微調整し、ボールの軌道を少し変更した。
本来であれば、私の掌と床の間を往復をするはずだったボールは。
床にバウンドして、そして再び私の掌に帰ってきたその後は。
真下に打ち付けられることは、もうなかった。
その代わりに、こちらに向かってくる相手チームのディフェンスの間をすり抜けて。
私の進行方向に対して9時の方向に吹っ飛んでいった。
その瞬間、視線の向かう先が一気に変わった。
コート内の視線は、ボールを追って私から外れる。
?「よっしゃラッキー!」
?「ボールそっち行ったぞ!取れ!!」
ボールの軌道から、手元をミスったと思われてしまったのだろうか?
ドリブルミスじゃねぇーぞ?
バウンズパスだ。
相手選手が追いかける中。
自らが宿す勢いを主張するかのように、ダンッ!!と音を立てて床にぶつかったボールは。
入射角、反射角を守るように、規則正しく跳ね返った。
ボールの軌道を追いかけた複数の視線は。
その法則と同じように、1度は床まで落ちて…
そしてボールが跳ね返るのと同時に、再び上へと上がる。
その時に気づく。
?「あ?!」
?「しまった!取られんぞ!!」
視線を向けた先にいる人影に。
そして、その人影が構えた手の中に。
跳ね返ったボールが、ピッタリと収まったことに。
オリーブ色の髪。
2つに結った頭髪は、ボールをキャッチしたその反動で、顔の横でゆらゆらと揺れた。