第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
どうする…
ちょっと移動してはみたはいいけれど、パスのルートはやっぱりない。
相手は意地でもボールを回させないつもりだ。
先ほどまでの頼みの綱。
詩織は…
そう思いながら後ろを振り返って、詩織を視界に収めると…
未だ自陣のゴール下から、一歩も動けないでいるのが私からは見えた。
ダメか、あいつにもバッチリマーク入ってる。
さっきあれだけ派手に決めたからな。
今度はそう簡単に、ゴール下に行かせてもらえるわけがない。
このままじゃ、誰にもボールを回せないまま時間だけが過ぎていく。
24秒なんて、割とあっという間だ。
そう考えた時だった。
その思考の合間に、私は少しだけ“焦り”ってものを感じた気がしたんだ。
先ほどまで、相手選手たちが抱いていたものと同じ。
試合に大きく影響する、そんな負の感情が。
私の心のどこかで、音も立てずに生まれ始めている。
24秒…そうか。
大方、制限時間が徐々に少なくなっていく中で、こっちが焦りを募らせていくのを待っているんだろう。