第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
そいつは、ディフェンスが一切及ばない空中で。
私が乱暴に放ったボールをキャッチし…
落下と同時に、捕らえたボールを片手でゴールに押し込んだ。
「オラッ!!」
【山桜桃 詩織 2年 11番 C 182cm】
ポニーテールにしたピンクベージュの髪をなびかせながら。
相手チームにディフェンスの余地を与えずに。
悠々と…
詩織の着地と同時に、私の足元が震えた気がした。
単に詩織の潜在パワーが、ここまで届いたってだけだろうけど。
そして、着地と同時に起こったことは、何も振動だけではなくて。
「詩織ナイスダンク!!」
「相っ変わらずよく跳ぶなぁ~?
バネでも入ってんじゃないの??」
地に足を下した詩織に、コートに立つ仲間たちからそんな言葉が集まる。
そして、それは私にとっても例外ではなく、
「天!お前突っ走り過ぎんなよ?!
さっきのはもっと慎重にだな」
『慎重にしてたらボール取られてただろ!』
そんな風に、良いも悪いも。
仲間の声が、自陣内で飛び交ったんだ。
「…ったく、まぁいい。
次もキッチリ守ってくぞ!!」
「『 おぉ!! 』」
こうして私たちは、再びディフェンスに戻り始めた。
と言っても詩織以外は、誰一人として自陣から出てなかったから、“戻った”のはオフェンス体勢からディフェンス体勢に切り替える…言わば“ギア”だけだった。
その際に。
たった1人でフロントコート側に突っ込んでいった詩織のことが気になって。
ふと後ろを振り返ると…
フロントコート内から、私の方に向かって笑顔で駆け寄ってくるのが見えた。
相変わらず、いい笑顔だな。
つか単に顔がいいな。
相変わらず。
羨まし。