第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
そう言いながら、史奈の顔の前にズイッ!っと自分の顔を近づけた。
その時に見た史奈の顔は。
何かを言いたげに、凄ぇー私を睨んでいた。
「だからさっきから気になってんだよ!!」
『何が?!!』
「それだよ!
ちょくちょく言ってくる“元祖馬鹿”!!」
史奈も強気に私に迫ってくる。
互いの額が当たりそうだったし、そう思った時にはもう当たっていた。
「顔面はこれ以上前に出せない」と気づいた時には、もう手が出ていた。
私の右手と史奈の左手。
史奈の右手と私の左手が、ガッチリと掴み合い。
額の押すのに合わせてそっちにも力が入った。
「お前のことだろ!」って言って一掃してやろうと思っていたのに。
その前に史奈が畳み掛けてきた。
「元祖馬鹿ってなんだよ?!
“元祖”ってなんだ?!」
『不満なのそっちかよ?!!』
口での押し問答に、体の動きがリンクする。
2人の汗が交じることで、普通ならどんな感情が湧いてくるのかも、疾うの昔に忘れてしまった。
史奈が口を開けば、こいつの力が上がったように感じたし。
こっちが言い返せば、腹の奥から変に力が湧いてきた気がした。
「なぁ〜また始まったぁ〜」と言う紗恵の声が、徐々に遠くなる…
でも聞こえてきただけで、そんなこと何の気にもならなかった。
目の前の馬鹿に「馬鹿」って言うことに、夢中になっていたから。
『“馬鹿”の方を気にしろよ!
やっぱ馬鹿か!馬鹿だよなテメェー!!』
「馬鹿ってことねぇーだろ!
誰が“先駆者”だ!!」
『んじゃ“本家”か?!』
「誰が“血筋”だ!!
こっちはスリーポイント決めてんだぞ?!
天に出来んのかよナメんなよ?!!」
『スリー出来るように
体勢整えてやったのは私だぞ?!!
G(ガード)がしゃしゃり出んな!!』
「Fがあたしのテクにケチつけんな!!」
ついには互いの存在すら、否定し始めた。
そんな時、
「ナチュラルに喧嘩を始めんな馬鹿ども!!
ディフェンス戻れ!!」
自陣側から聞こえてきた、キャプテンのその声で。
私たち2人は、一旦身を引いた。
あくまでも“一旦”。
“一旦”だからな??