第21章 もう一度貴方と(番外編3の3)
荷物をまとめ、部屋の前に出ると廊下の向こうの方から、黒いスーツを着た若い男性がこちらに走ってきていた。
「あっ!お待たせしました!」
「いえ、待ってないですよ?」
綱手川さんはバタバタと私の前に立って私を見下ろした。
短髪、黒髪、爽やかな青年。
背はすらっと高く、細身でいかにもモテそうな男性だ。
そのくせ少し少年ぽい元気な感じがギャップで年上女性にもウケが良さそうだった。
「あのいきなりですみません!綱手川っていいます!」
「はい。私は…」
「さんですよね!よく知ってます!この前何度か電話をしたんですよ?補助監督として。」
「そうだったんですね。ごめんなさい、気付かなくて。」
綱手川さんは勢いよく首を振り、にこっと笑った。
「電話での優しい声とか、遠くで見かけた時の笑顔とか、すっごく素敵で…、その…!あの…!」
流石の私でもここまできたから何の話か察することはできる。
私はすこし顔を赤くし、彼の言葉を聞いた。
「五条さんとは…付き合ってないんですよね!?」
「へっ?」
「俺てっきり二人は付き合ってるって思ってて!」
「五条さんと?ないですないです!
そんな恐れ多い。と、私は首を振った。
「よかった…お二人いつも一緒だったから。じゃあ!その!よかったら!」
声が大きい。
恥ずかしいから少し音量を落として欲しいと、私は彼に近づき落ち着かせた。
「さんっ!」
「あ、あの…」
右手を両手で握りしめられ、近くで見つめられた。
ここまで真っ直ぐ気持ちを伝えようとされたことがあっただろうか。
あまりの真っ直ぐ具合に私はドキドキした。
ーーー…好きだよ。
「…っ!」
私は綱手川さんの手を振り払った。
頭に響く知らない声。
「ごめんなさい…。彼氏は確かにいませんけど、貴方とは…その…」
「お友達からでもダメですか?」
「…今はそう言ったこと考えたくなくて、ごめんなさい。」
私は彼の目を見てはっきりと断った。