第20章 もう一度貴方と (番外編3の2)
夏油は高専の自室で報告書を作成していた。
五条が海外に行っていたため、いつもより任務が多く、報告書の枚数も増えていた。
たった一週間、特級術師が一人いなくなっただけでこれだけ皺寄せが自分に来るとは…と、夏油は濃いめのコーヒーを啜った。
「すぐるぅぅうーーー!!」
ばぁぁーんと、ノックもなしに騒がしく入ってくるのは一人しかいない。
「はぁぁ。うるさいな。」
「傑ぅ!聞いてよー!」
前にもあったなこんなこと。と、夏油は手を止め目の前で涙を流すフリをする五条に視線を向けた。
前はあの時だ。
と心臓がつながったと報告してきた時だ。
あの時もこんな風に騒いでいた。
「ねぇ!が僕の事忘れちゃった!!」
「…は?」
夏油の机に伏せて、えんえーんと声を上げる五条に夏油は眉を寄せた。
「が僕の事忘れたの!」
「それは聞いた。どういうことだ。何か記憶障害か?いやイタズラじゃないのか。」
「僕のことだけ忘れてるみたいなのー!えーん!」
「その気持ち悪い喋り方やめろ。」
ごっと殴ろうとしたが、無下限のせいで宙に浮いたままの拳を夏油は戻した。
「真面目に話しなよ。」
「大真面目。、阿曽巫女の記憶が戻ったみたいなんだ。」
すんっと真顔になった五条は、立ち上がり言った。
「ますます分からないな。がじゃなくなったのか?」
「それは違う。はのまま、阿曽巫女の記憶だけ思い出したみたいだね。」
「じゃあ、なんで悟を忘れるんだ。」
「そこだけわかんないんだよ。僕を見て、浄化と呪力を混ぜたすんごい矢を放ってきて死ぬかと思ったよ。」
「阿曽巫女の力かい?」
「たぶんね。敵ではないってことはわかってくれたみたいだけど、高専の事とかは全部覚えてるのに、僕のことだけ忘れられてる…。」
「……にしては、そんなにツラくなさそうだな。」
悲しいフリをしてるようだが、五条はどことなくわくわくしていた。
「ん?だってもう一回口説けるじゃん。」
「……。」
「もう一度初めから。」
にぱっと笑う五条に夏油は呆れて、何も言わなかった。