第12章 *Happy Birthday 7/7*〜緑間真太郎〜
…あれから一年。
今年もまた、七夕はやってきた。
テーブルに置いた短冊を前に、俺は何を書くか迷っていた。
実際、叶ってほしい事は大体叶ったからだ。
もちろん、バスケで誠凛に…いや、全ての学校に負けない、という願い事は既に書いた。
「真ちゃん、まだ迷ってるの?」
「一つは書いたのだよ。」
「え?二つもお願いするの?欲張りだなぁ。」
ムッと不機嫌な表情を向ければ、冗談だってと笑う、俺の恋人。
迷っているのは、まさにその彼女、香奈の事なのだが、何も知らない彼女は、俺の事を『欲張り』なんて言う。
…でも、本当は、必要ないと分かっていた。
願い事をしなくても、これからは二人の力で一緒にいれると。
だが…やはり、どこか不安になっていた。
怖い。
香奈が俺から離れていくかもしれない。
何も知らないうちに、嫌われるかもしれない。
そんな不安が募って、どうしても願い事に頼ってしまう。
「…はぁ。」
「…?なんかあった?真ちゃん。」
「何もないのだよ、別に。」
「じゃあ、ため息吐いちゃダメだよ。不幸になっちゃう。」
『不幸』
その言葉に、また苦しくなる。
また、香奈といられなくなる事を考えてしまう。
「…真ちゃんには不幸になってほしくないもん。」
考え事に気を取られる俺に抱きついて、上目遣いで見てくる香奈に、ドキッとした。
「香奈は、俺が好きか?」
「当たり前じゃん。…真ちゃんこそ、一緒にいないと怒るからね。」
証明するように、目が合うと、一瞬で唇を重ねられる。
その後のふにゃっという笑顔は、今までの不安なんかなかったように、俺を安心させてくれた。
「…そうか。」
香奈の頭を優しく撫で、俺は、香奈に微笑みかけた。
…願い事は、一から考え直しか。
いっそ、香奈が幸せになりますように、でもいいかもしれない。
もう、何にも頼らないから。
香奈への愛は、自分で伝える。
シナリオ通りなんかじゃない、俺だけの言葉で香奈への愛を伝えるなら、多分、これしかないだろう。
「…香奈、誰よりも愛してる。」
*Happy Birthday 7/7*
無数の星にでもなく
短冊にでもない。
俺は、全てを君に誓う。