第11章 *恋の計算*〜伊月俊〜
…あれから二時間は経った。
遠野はというと、思ったよりも理解してくれていた。
「遠野、お疲れ様。そろそろ休もうか。」
「はい〜…。あっ、そういえば私、お菓子持ってきたんです。」
テーブルに突っ伏していた遠野は、すぐに顔を上げて、鞄の中からチョコチップクッキーの袋を出した。
「これ、すっごく美味しいんですよー!」
袋を開けて、どうぞ!と言う遠野。
その笑顔に、思わず目を逸らしてしまう俺。
けど、結局『鷲の目(イーグルアイ)』を使って見てしまうわけで。
「あ、う、うん…。」
ドキドキしながらも、そのクッキーを一口食べた。
美味しいんだろうけど、正直よく分からない。
よく考えたら、家に二人きり。
今更だけど意識して、緊張し始めた。
「どうですか?伊月先輩。」
「…美味しい。」
「ですよね!よかったー、伊月先輩も分かってくれたー!」
…今度、落ち着いたらもう一度食べよう。
なんて思いつつ、恐る恐る遠野を見る。
当然のように目があって、一瞬でまた逸らした。
「伊月先輩は、すごいですよね〜…」
「どうして?」
「だって、あの謎の暗号を解読するのが得意って、私からしたら超人ですよー?あ、謎の暗号っていうのは、数学の事です。」
謎の暗号って、大げさだなぁ、と思い、ちょっと笑う。
それを見て、遠野はむぅ、と不機嫌そうな顔をした。
「笑わないでくださいよー」
「ごめん、つい面白くてさ。…遠野は知らないでしょ?俺に解けない暗号もあるってこと。」
あまりの衝撃に、手に持っていたクッキーを落とす遠野。
…やっぱりオーバーリアクションだ。
「うそっ!?もしかして、数学界のラスボスですか!?ゴールドドラゴン!?」
小学生男子のような例えに、また笑ってしまう。
「ちょっと違うかな。」
「う…よく分からないです…」
「じゃあ、教えてあげる。」
俺ができないのは、恋の計算だよ。
*恋の計算*
恋+愛=恋愛。
片想い+片想い=両想い。
俺の気持ち+君の気持ちは、何になりますか?