第5章 *見た目よりも*〜黄瀬涼太〜
香奈side
「涼太、おはよー!」
「おはようっス、先輩!」
「むぅ…。先輩はやめて、っていつも言ってるのに。」
私の後輩であり、彼氏の涼太は、私よりも大人びている。
今だって、私のわがままに
「ダメっスよ、今この場では先輩なんスから。」
なんて言っている。
「ちぇー。涼太の意気地無しー」
「…先輩、それ、意味分かってないっスよね?」
え…涼太頭良くないのに、意気地無しの意味分かるの!?
私が分からないのに!?
やっぱり大人びている。
私は国語の通知表に1ばかりが並んでいるけど、それは悪夢だという事前提でそう思った。
「大丈夫っスよ。心配しなくても、先輩はいつだって俺の可愛い彼女さんっス。」
「〜〜〜っ!!もう、すぐそういう事言うの、やめてよね!」
恥ずかしくて、居ても立っても居られなくて、その場から逃げ出した。
…実を言うと、少し悟られたくないのもあったのだ。
やっぱり先輩、って呼ばれてる時は、悲しくなるから。
涼太はそれを全て分かってて、それでも先輩と呼ぶ。
「…意地悪。」
意地悪じゃないと知っていながら、一人、そう呟いた。
だって、ただでさえお互い部活が忙しくて、なかなか二人きりになれないのに。
…まだ、彼女っていう実感が湧かないなんて。
でも、涼太が私のわがままに対して、大人っぽい対応をする度に思う。
これ以上求めたら、自己中だって思われるかもしれない、と。
だから、いつも冗談混じりにしか言えなかった。
まさか、あれから全然話さなくなるとは思わなかったから。