第21章 *りんご飴*〜森山由孝〜
香奈side
二年間ずっと好きだったあの人を、
三年目の今年、夏祭りに誘ってみた。
「わっ、私と、お祭り!行きませんか!?」
お相手は、高一の時一目惚れした、同学年の森山由孝君。
森山君は色んな女の子に告白して振られ続けてきたって噂を聞いたけど、私は声をかけられたことすらなかった。
…でも、何でか諦めきれず、いつの間にか二年が経っていた。
とはいえ、自分から話しかけることもなかなかできず、話しかけたのは今日が初めて。
初めての会話にしては大胆な手に出た気はするけど、他に話しかける口実がなかったんだから、仕方ないと思う。
「…え?」
…そうはいっても、突然知らない女子にお祭りに誘われて、森山君は動揺してるみたいだった。
「あ、ご、ごめんなさい!私、A組の遠野 香奈って言います!その、あの、私…!」
「ははっ、テンパりすぎ。可愛いね、君。」
その瞬間、「きゅんっ」って音がなるのが分かった。
「可愛いね」って言葉も、その笑顔も、本当にかっこよすぎる。
「香奈ちゃん、だよね?」
「ひゃいっ!?じゃなくて、はい!」
名前呼びされて変な声が出たけど、森山君はその声に対してさえ、「ホントかわいー子」と言ってくれた。
…可愛いって、二度も言われちゃった。
さっきから、ドキドキが止まらない。
「じゃあ、行こっか、お祭り。」
「え、い、いいんですか!?」
あっさり出たOKに、私は驚いた。
森山君なら、きっと他の女の子が予約済みなのかと思ってたから。
運がよかったのかもしれない。
「もちろん。行きたい日、今度教えてよ。合わせるから。」
そう言って渡された紙には、いつの間に書いたのか、森山君のメアド。
森山君にとっては普通なのかもしれないけど、こんなさらっとメアド交換できるなんて、夢のようだった。
「あ、ありがとうございます…っ!」
頭を下げてすぐに教室から出て行ったから、多分森山君には見えなかっただろう。
真っ赤で、笑みが抑え切れてなくて、涙目のこの顔なんて。
でも、知らないことがあるのは私も同じだった。
私が走り去った後、
「本当は名前、前から知ってたけどね。」
森山君が呟いたその言葉は、私には届かなかった。