第1章 プロローグ
後ろからズシン、ズシンと巨人が歩く音が響く。
わたしは思わず足を止め、振り返ると巨人は先ほどまで持ち上げるのに苦戦していた瓦礫を簡単に退かし、カルラを手に取るところだった。
そして、大きな口を開けたかと思うとそのままカルラを齧り食べた。
喉からヒュッと声にならない声が洩れる。
苦しい。
胸が締め付けられてどうにかなってしまいそうだ。
初めて、巨人を見た。
初めて、巨人が人を食べるところをみた。
「もう少しで母さんを助けられたのに!!余計なことすんじゃねぇよ!!」
エレンが叫ぶ。ハンネスに抱えられていたエレンは暴れ、ハンネスの「いい加減にしろ!」という言葉と共に投げ飛ばされた。
わたしは声をかけることができず、その光景をただただ見ていた。
「お前の母さんを助けられなかったのは、お前に力らがなかったからだ。オレが!!巨人に立ち向かわなかったのは‥‥オレに勇気がなかったからだ‥‥!!」
ハンネスのその言葉にエレンは両目から涙を溢れさせるが、先ほどの勢いはなくなり、目を伏せる。そんなエレンにハンネスは「すまない‥」と手を取ると、また歩き出した。
わたしはその後ろ姿を見つめながら、この前アルミンが言っていたことを思い出していた。
壁の向かうには海があるだけじゃない。
炎の水、氷の大地、砂の雪原、外の世界は壁の中より何倍も広いと。
その言葉を聞いた時、わたしは胸が高鳴った。
いつか、壁の外に出れたら行ってみたいななんて考えていた。
――わたしは馬鹿だった。この壁の中での幸せな生活に慣れすぎてた。壁の向こうには、こんなにも恐ろしい巨人がいるというのに。