第3章 お前も一緒に来るか?
「え?今、逸って……」
中学校の頃のあだ名をそのまま呼ばれて、目をぱちくりさせる。
何も知らない女子は親しむように続ける。
「逸崎さんは長いから、逸の方がいいかな〜って。かっこいいと思うけど…だめ?」
「……ううん。ありがとう」
逸崎は夕暮れで澄んだ空を見上げて、今の自分と同じ色だなとふと思う。
友達とこんな気持ちで話すのなんて初めてだ。全部、”あの人”(國神君)のおかげだ。
(全く。とんだお人好しヒーローだよ。あの人は……)
逸崎は軽やかな足取りで、友達と帰路についた。
かつての過去を引きずることなく、一時でも忘れることができた。
学校に行けば、國神君がいて、國神君が繋いでくれた優しい友達にも会える。
この嬉しさや楽しさや、ずっと続けばいいなと思っていた。
でも、過去の記録は、写真と記事と共に、ずっと残り続けている。
「これって、#NAME3#のことだよね?」
友達だからこそ、親密になればなるほど、素性を知られる隙が生まれてしまう。
迂闊だった。
たかが新聞の切れ端なのに、私はこの瞬間、自分の犯した罪と消えない父の死への侮辱を思い出されてしまった。
『U -15 女子サッカー 優勝!!#NAME2#選手。父親の死を乗り越え、見事勝利の道へ!』
私は、家族の死を出しにして、その名前を晒してしまったんだ……