第11章 【新たなるもの】
――杖を選ぶのは人ではなく、杖が人を選ぶ。
そうオリバンダー老は言ったが、この意地の悪い祖父の杖が、本当に新たな相棒になりうるのだろうか。
例え手に入れたとしても、わずか3秒で裏切られて逆噴射とかされそうな気がしないでもない。そう思うと、つい重いため息が出てしまう。
それじゃあ別の棺をあばき、遺体と共に眠っている別の人の杖にするか、と問われたら、それもそれで何かが違う気がした。それこそ本物の墓荒らしな気がしてならない。
腹立たしいことにそれを察したのであろう、目を閉じていたはずの祖父は右往左往しているクリスを見て滑稽そうに哂った。
「どうした小娘、墓あばきは嫌いか?プライドを捨てろとまでは言わないが、汚れ仕事というものに手を染めることも人生の勉強だぞ」
――汚れ仕事。そう言われた瞬間、何故か父の事を思い出した。突然墓場に連れてこられたと思ったら、ヴォルデモートが復活していて、そして最期は……。
あの墓場での光景を思い出し、クリスは原点に立ち返った。あの時の雪辱を晴らすためにも、こんなところでもたもたしている訳にはいかないのだ。
クリスは早速霊廟に向かい、棺の上に積もったほこりを払い、祖父の名前と没年数を確かめて、その重い棺の蓋を開けた。それから棺の中で眠る祖父に向かって目を伏せ、両手を組んでこう言った。
「危うく目的を見失いかけていました、恩に着ます」
「クハハハ!!目的のためには手段を選ばんどころか礼まで言うとは!!」
例の部屋から、肖像画の祖父が「実に愉快だ」と言いながら優雅に手を叩いて笑うのが聞こえて来た。その笑い声を聞きながら、なりふり構っていられないクリスは、棺に眠る祖父が持つ杖を手に取った。
すると、手にした杖が永い眠りから目覚めた様に熱くなり、同時にクリスも体の中心が熱くなってくるのを感じた。
それらは次第に強くなり、杖と体、両方から沸々とエネルギーが湧き上がってくる。
クリスは体中で爆ぜる熱量をコントロールしようとしたが、とてもじゃないが、抗うことが出来ない。
体を蹂躙していた巨大なエネルギーは、全身にほとばしり、ついに限界を超えた力は光の柱となって天井を突き抜けていった。
その壮大な威力にクリスは一瞬気が遠のき、その場に倒れてしまった。