第10章 【世界征服ごっこ】
ドラコと手をつないで「姿現し」をすると、むっとする様なこもったかび臭いにおいが鼻を突いた。
クリスはマントの袖で鼻を覆い、次いで杖灯りを点けると、ぼんやりと長く続く廊下に出たことが分かった。
――間違いない、ここは2年生の時に来た、グレイン家の秘密の部屋の中だ。本来なら入口でパーセルタングを使わなければ開かれないのだが、今回は襲われる可能性を考えて直接『姿現し』してみたが、どうやら上手くいったようだ。
「酷い臭いだ。クリス、此処が君の家の秘密の部屋かい?」
「ああ、これらの部屋の殆どが霊廟で、本当の秘密の部屋はその先に隠されているんだ」
杖灯りを頼りつつ、クリスとドラコはゆっくりと先に進んだ。すると真正面に大きくヘビの彫刻をかたどった扉が現れた。
クリスは一瞬ちらりとドラコを見ると、パーセルタングで「開け、秘密の扉よ。今こそ真実の姿を現せ」と命じた。するとゴゴゴゴゴ……と重い岩で出来た扉がゆっくりと開かれていった。
その部屋の中だけは、相変わらず色々な魔法道具が飾られていて、地上に通ずる穴の1つすらないはずなのに空気も新鮮でかび臭い匂いもなく、テーブルの上に埃1つさえなかった。
ここに来て、クリスはやっと息をつくことが出来た。
「ここがこれほど綺麗に保たれているのを見ると、やっぱりリドルはこの秘密の部屋を見つけられなかったみたいだな」
「リドル?」
「『例のあの人』の本名だよ。リドルだけじゃ反対勢力だと判断できないだろう?」
「だからと言ったって……本当に、君の度胸には恐れ入るよ」
「お褒めのお言葉、痛み入りますわ」
鼻で笑いながら、クリスは松明の明かりをともした。それにつれ、徐々に部屋の全貌も見えてくる。
ドーム状の部屋の壁には高そうな絵画や肖像画が飾られ、ゴブリン製と思われる斧と剣が交差する形で飾られている。
また、奥に飾ってあるタペストリーにも金糸をふんだんに使って縁どられていたりと、贅沢な作り物が多い。
まだクリスがこの屋敷に住んでいた頃にも、家中に名工が作った調度品や絵画が飾られていたが、それはある意味フェイクで、ここに眠るお宝こそ、表には出せない“本物”の品々と言うわけだ。
クリスは杖灯りをともしたまま、絵画が飾ってある辺りに向かって声をかけた。