第9章 【例えこの先に何があっても】
「ドラコ、1つだけ隠れ家があるぞ。しかもそこに入れるのは選ばれた人間だけだ」
「選ばれた人間?だれだ、それは?」
「私とハリーと、それとヴォルデモッ……」
クリスがその名を口にする前に、咄嗟にドラコがクリスの口をふさいだ。さらに慎重に辺りの警戒までしている。
ドラコが口から手を放すと、声をひそめて理由を教えてくれた。どうやら「ヴォルデモート」と奴の名前を呼ぶと、そこに『死喰い人』が現れる仕組みになっているらしい。
確かに敵対する騎士団の人間や、しけたよっぱらい以外は奴を「ヴォルデモート」なとど呼ばないだろう。
面倒くさいが効果は最大だ。悔しさ紛れに、クリスはチッと舌打ちした。
「まあいい、話しを戻そう。私とハリーと『例のあの人』だけが出入りできる場所。つまり行き先は我が家の秘密の部屋だ」
「君の家の?危険じゃないのか?」
「……多分平気だと思う。じゃなかったらあそこまで荒らされてないはずだ」
2年前、護衛付きでサンクチュアリの屋敷に戻ったとき、金品の物色以外にも無関係だと思われる壁や床なども破壊された痕跡があった。
恐らく何処にあるかもわからない秘密の部屋を探そうと、躍起になっていたんだろう。
もしヴォルデモートが我が家の秘密の部屋に気づいていたら、そんな雑な破壊工作はされないはずだ。
もちろん生家の屋敷に帰るのには十分リスクはあるが、そんな事を言っていたら何処だって一緒だ。
それならばと、クリスはドラコにスッと手を差し出した。
「それじゃあ、行こうドラコ。この先に何があっても――」
「――ああ、永遠に一緒だ」
2人は微笑みあいながら手を取り合うと、クリスの先導でその場から姿くらましをした。