第7章 【ラブグッド家】
――バッシャーン!!と激しい水音と共に、クリスの体は水の中へダイブした。
何が何かも分からず、パニックに陥りながら体をバタつかせていたら、鼻と口から大量に水を吸い込んでしまい余計にパニックになって体をよじった。
自分はここで死ぬのか!?そう思っていたら突然、何者かがグイッとクリスの体を引っ張り、そのまま岸まで運んでくれた。
ゲホゲホと水を吐き、朦朧としている頭をふるっていると、クリスを助けてくれた男の人がにニコ~ッと微笑んだ。
「大丈夫かい?川で夜釣りをしていたら、いきなり君が空中から現れて、そのまま川に飛び込んだもんだから慌てて岸まで運んだけれど……もしかして『姿現し』の失敗かな?」
「ええ、まあ、そんなところです」
クリスは言葉少な気に答えた。そうなった経緯はさておき、嘘はついていない。
そういえばこの男性、どこかで見たことがある気がするが……。クリスが出来る限り記憶をたどっていくと、例の結婚式がパッと頭に浮かんだ。そうだ、たしかルーナの父親と名乗った人だ。
こんなに目立つ外見をしているのに、どうして気づかなかったんだろう。少し黄色みがかった白髪で、片目がすこし斜視になっている。
緑と黄色のローブはクリスを助けてくれた所為でずぶ濡れになっているが、男性が着るにはスパンコールが多い気がした。
「ねえ!君はもしかして、クリス・グレインじゃないかい?」
「そうですけど……?」
「僕はルーナの父親のゼノフィリウス・ラブグッドさ!ルーナがよく話してくれる友達の中に、君の事も話していたんだ。最後の召喚師で、ちょっと鈍い所もあるけど感は良いって!それにとても友達思いだとも言っていたよ!」
鈍いけど感が良いとはこれいかに。いや、ルーナの感性からするときっと褒めてくれているんだろう。
その時、クリスはハッと気づいた。召喚の杖が無い!それにオリバンダーの店で買った魔法の杖も無い!!