第16章 【立ち込める暗雲】
召喚石に入っていた細く長いヒビに、クリスは大きく目を開き言葉が出なくなった。
この杖は世界に2つとない精霊を召喚させる杖であり、亡き母様の唯一の形見でもある。その大事な杖がこんな風になってしまうなんて……。
あまりのショックに言葉が出てこず、クリスが呆然としているとドラコが軽く頬を叩いた。
「おい、しっかりしろクリス!」
「ド、ドラコ……?」
「ひとまずルーピンの小屋に戻ろう。そのための拠点だろう?」
「そう、だな……」
クリスはハリーとハーマイオニーの顔を見た。先ほどまでの笑顔はどこかに消え、2人とも凄くショックを受けた顔をしている。それでも、クリスの比ではなかった。
クリスの脳内は混乱を極め、頭がどうにかなってしまいそうだった。だがドラコの言う通り、いつまでもこんなところに居るわけにはいかないのも分かっている。
クリスは自分の頬を両手でピシャッと叩くと、ドラコとクリスが誘導する形で、4人はルーピン先生のログハウスまで『姿くらまし』をした。
いつものゴム管をぎゅっと通る様な嫌な感覚の後、目の前に広がっているルーピン先生のログハウスに、ハリーとハーマイオニーが物珍しそうにキョロキョロしていると、ドラコが厳しい声を上げた。
「遊びに来たんじゃないだ、さっさと入れ!」
ドラコが叫ぶと、ハリーとハーマイオニーは玄関に急いだ。
クリスとドラコ、それにハリーとハーマイオニーが同時に家に入ると、物であふれかえっているログハウスはかなり狭く感じられた。
取り合えず湖でびしょ濡れになったハリーとハーマイオニーにタオルと着替えを渡すと、その間にドラコが気を利かせて、クリスの為に紅茶を入れてくれた。
それを飲むと、体が内側から温まった所為もあったのか、少しホッとできて若干だが余裕が戻って来た。