第9章 別れの時
前のめりにトオルの身体の上に重なるようにして倒れた。
その身体を優しく受け止めてくれる。
「美都、今日の美都はいつもと違うね…」
「そう?きっとトオルの事が愛しいと感じているからよ…」
確かにこの時、私はトオルの事がとても愛しいと思っていたのだ。
トオルと別れたくないと思っていた。
しかし、もう今日が最後の日なのだ。
私は、コンドームが外れないようにしながらペニスを自分の身体から引き抜いた。
トオルは自分でコンドームを取り去るとその口を縛りゴミ箱に捨てた。
その後、私たちは抱き合うようにして少しだけ眠った。
目が覚めてから、何を話しただろうか。
余り、覚えていなかった。
私は、トオルをベッドに残して着物の着付けをした。
姿見が無かったのでちょっとだけ時間が掛かってしまったのを覚えている。
ラブホを出るとすでに外は陽が落ちて暗くなっていた。
それに、かなり寒かった。
トオルはそんな私の震えた肩を抱いてくれた。
「美都の和服姿は年相応に見えてとても綺麗だよ…」
そう、何度も言ってくれていた。
その言葉は今でも耳に残っている。
トオルとの別れの時間はこうして終わったのだった。