第13章 狂愛
マンションを出ればすでに帳は上がっていた。
夏油が伊地知さんに言ったのね。
ホテルに戻り、荷物をまとめ会計をし、高専に戻る。
無言の時間がどのくらい続いたかはわからないけど、夏油は小さな声で悪態をついた。
「……死んだら、何にもなんないのに。馬鹿だよな」
小林茜に対してそう言ったのは、夏油なりの優しさなのかしら。
「好きな人に好きな人がいたとしても、死んだら意味ないじゃん。いじめだって……。なんでいじめられてる側が死ななきゃいけないんだよ……。なんでいじめてる側は今も楽しそうに生きてんだ……。小林茜だって、生きて、本当はもっと……」
ぐっと唇を噛む夏油。
きっと今彼女の心の中はぐちゃぐちゃだ。
いろんな感情が渦を巻いているに違いない。
「オマエがそれを気にする必要ねえだろ」
「………」
「俺達は呪術師で、人間だ。ヒーローじゃない。いろんな奴に同情したって、目の前で起きてる事を対処するしかないんだ」
「わかってるよ。そんなこと。でも、できれば助けてやりたかったなって思っただけ」
「そう生易しいもんじゃないだろ。万事を尽くしたところで変わらないものは変わらねえよ。俺達にできることはやった。死なせて……祓ってやることが救いになることだってあんだろ」
考えすぎじゃない?
将来禿げそう、この2人。
普通に考えればいいのに、無駄に難しく考えるからわけがわからなくなるのよ。
「そういうもん?」
「俺はそう考えてる。善人が平等を享受できるように俺は不平等に人を助ける。俺の呪術師としての生き様だ。オマエだってそういうもん、あんだろ?」
「………」