第31章 契約破棄
心臓が……速くて、うるさい。
それとは逆に、徐々に落ち着いてくる声のトーン。
「俺が欲しいのは……夢だよ♡」
真正面から捉えられ、私は停止する。
トロンと甘くとろけたような蜂蜜色の眼に、映る。
「俺の、恋人になってくれますか?」
“……私の、恋人になってくれる?”
半年以上守られてきた秘密の“契約”は……
今日をもって破棄された───。
「ホンモノ……やっとなれるね。」
私に熱視線を送る蜂楽に、堪らず口付けた。
キスの後、おでこ同士をくっつけて囁き合う。
「……廻。大好きだよ。」
「♡ 俺も夢がだーい好き。」
「私と、付き合ってください。ふふっ、なにこれ。」
「にゃはっ。すっげぇ今更だよね、俺ら。」
今まで色んなことしてきた私達だから……
初恋で多用される言葉に、恥ずかしさが込み上げる。
「俺の全て、夢にあげる♡」
オーブンで焼いてるケーキのいいにおいが漂った。
焼き上がっても、しばらく放置しちゃうかも。
「だから夢の全てを……俺にちょーだい♡」
───だいじょーぶ。
あなたが好きな缶詰のパイナップルをたくさん入れた。
だから最後の一口まで……
美味しく食べてよ───。