第31章 契約破棄
兄であるマスターとは、今まで通り接してる。
大学の入学金や学費を貯めるために、バイトも変わらず続けている。
マスターの部屋に置いてもらった二週間は……
抹消された兄妹の絆を、取り戻せた時間だった。
「私の顔、母に似てますよね。」
銀色の業務用冷蔵庫に、母親のDNAを色濃く受け継いだ自分の顔が歪んで映る。
「嫌になりませんか?私と一緒にいて。」
“夢ちゃんママの眼を見て、なんとなく。”
蜂楽が直感で、信用するに足り得なかった母の眼を持つ私。
愚問だと思いながらも、よく似ていると言われ続けてきた事実をどんな形でも否定されたくて、自己満のために聞いてしまう。
「んなもん関係ねぇだろ。お前はお前なんだから。」
こんな面倒な妹に付き合ってくれる兄は、とても優しい。
「夢ちゃーん、迎えに来たよん♪」
“ストーカー”の真相が判り尾行の心配がなくなっても、蜂楽は毎日の部活帰りに必ず迎えに来てくれる。
今まで“K.K.”を訪れた蜂楽は、動揺したり乱心したりだったから…
こうやって落ち着いたドアベルの音を聞けるようになっただけでも、良かったなと思う。
「……あのさ。この間はごめん。アンタのコト、誤解してた。」
「俺も殴って悪かったな。でも次はねぇぞ。夢を傷付けたら許さねぇ。」
「……解ってるっつーの。」
蜂楽の態度で、また実感する。
やっぱり少しずつ……大人に近付いてる。
嬉しくなって、綻んだ顔で蜂楽を見つめた。