第30章 裏切り
家を出て、私は蜂楽家に“帰る”。
自転車は軽快に走る。
こんな家いたくないって思う私を察してくれたのか、父には特に止められなかった。
“不安なことがありゃ、いつでも来いよ。”
マスターは今朝、出発する時にこう言ってくれた。
蜂楽の家に戻ることを許してくれた。
バイトはまだ続けるし、他の美大の試験もある。
これからもよろしくお願いします、マスター。
───早く、早く……蜂楽に逢いたい。
話したいことが……たんさんあるよ───。
「ただいま。」
玄関を開けると、蜂楽と優さんが笑顔で迎えてくれた。
「あっ!夢ちゃーん♪お疲れ……」
「おかえりー……どう、したの……?」
ふたりの笑顔は、段々と心配そうに曇っていく。
あれ、変だな……?
眼から勝手に……涙が出てる……。
「……あれっ?なんでっ、私……?」
ココに帰るのを、二週間も心待ちにしてた。
蜂楽と優さんに会えるのを、切に願ってた。
それなのに……どうして悲しい涙が……
止まることなく溢れてくるんだろ……?