第29章 おつきさま【蜂楽視点】
夢ちゃんの試験の日、俺は早朝から駅で待った。
何時に来るか判らなかったし、
なによりゼッタイ“お守り”渡したかったから。
「(なかなかこないな。)」
改札の近くで、リフティングして何時間も待った。
仕事に行く大人も、学校に行く学生も……
平日の何気ないモブを、何十人も何百人も見送った。
「君、そこでボールはやめなさい。」
「あーい。さーせーん。」
二つ返事でお巡りさんをかわして、またリフティングして時間を潰した。
もう10時、5時間待ってる。
試験の日……今日で合ってるよね?
「(……夢ちゃん、どうしたの?)」
リフティングも疲れてきて、階段に座った。
スマホを開いて、夢ちゃんの写真をスワイプする。
「(あ、コレ…懐かし。)」
原宿で撮った写真。
初めてのデート、初めてのツーショット。
夢ちゃんが言ってた。
俺と原宿に行ったのがきっかけで、デザイナーになる夢を思い出せた、って。
「……逢いたいよ、夢。」
ポロッと溢れた、切なるキモチ。
俺の声じゃないみたいに、消えそうで脆い。
「……夢、あいしてるからね……。」
ヤバい、泣きそう。
持ってきたクロッキー帳を、ギュッとした。
「……そこで何してるの?」
近付いてきた静かな気配は……
あの日から毎晩、
俺を見守ってくれてる“お月様”だった。