第29章 おつきさま【蜂楽視点】
アイツに殴られてからは、あてもなく歩いた。
気付いたら、夢ちゃん家までの途中にある河川敷に辿り着いてた。
俺が夢ちゃんに……
“かいぶつ”の話をした場所。
雨に濡れたままキスして……
ハジメテをしたいと思った場所。
あの時ふたりでくっついた橋脚のたもとは……
今日も変わらずそこにある。
「……ムカツク……。」
変わっちゃったのは、俺だけなの?
夢ちゃんは、なにも変わってないの?
“ふたりだけの場所、また探そ?”
昼休みの使い道だって、夢ちゃん自分からこう言ったよね?
俺はその言葉を信じて夢ちゃんのクラスに何度も行ったのに、いつもいなかった。
家で一緒の時間はたくさんあったのに、どうしてか直接聞く気にもなれなかった。
優とアトリエにいるばっかで、俺が行っても入れる隙間なんてないんだもん。
学校中走り回ってやっと見つけた夢ちゃんは
知らない人みたいになってた。
『蜜浦ちゃん、ほんと上手くなったね!』
『どこの画塾行ってるの?』
『ありがとう!私ね、画塾は行ってないんだ。』
美術部の人達と仲良く話すキミの心に
もう俺は……いなかったでしょ?