第27章 噛みつかれた日 ✢
「その辺にしとけ。偏愛(ヤンデレ)小僧。」
───マスターの、声がする。
「……っ!!」
───蜂楽の、うめき声がする。
「う゛っ、かはっ!!げほっ!!げっほ……!!
はぁっ……!!く、あ゛っ……!!」
喉元の指が、解けた。
私、生きてる───。
倒れた私の目の前に、頬を腫らした蜂楽がリュックを背負ったままでお尻をついてる。
首を絞められたせいで出た涙が、視界を滲ませる。
「……ってぇな。」
「鍛え方が足りねーんじゃねぇか?現役高校生がダラシねぇ。」
蜂楽はマスターに殴られたみたいだった。
口の中を切ったようで、ペッと血を吐いた。
まだ4時の夕陽が差す住宅街は、数人の通行人が何事かとこっちを見ていた。
「恋人同士、聞かれたくねぇ話もあると思って放っといてやればこのザマだ。
俺の店の敷地で狂気じみたコトすんじゃねぇ。
イカれクソガキ。」
「……っはぁ?そもそもアンタ何様ぁ?いい歳したポッと出が。俺と夢は骨の髄まで愛し合ってんだよ。
俺の女たらし込んだゴミクズの分際で説教ですか?これだからやだね年増は。」
蜂楽はマスターをキッと睨む。
「“何様”?“愛し合ってる”?笑わせんな。」
マスターは蜂楽に距離を詰めて言い放った。
「俺の大事な“妹”に二度と近付くんじゃねぇ。
夢をお前の家になんか戻らせねぇよ。
ガキは家帰ってひとりでシコってろ。
病的中毒自慰狂い(メンヘラホリックオナニスト)。」
…………妹…………?