第27章 噛みつかれた日 ✢
「……なに、してんの……?」
ドクン、ドクン……
重い心臓の音が、全身を巡る。
それなのに、頭に酸素が……巡らない。
怒りでワナワナ震える体、喰いしばる歯、逆立つ髪。
色を失くした……蜂蜜色の眼。
心に棲まうイマジネーションとは違う。
本物の“かいぶつ”が、そこに立っていた。
マスターからすぐに離れた。
彼も、私から距離を取った。
大きくて温かい胸板から剥がれ、冷や汗が出る。
「ちがっ、廻っ…!」
「来いよ」
聞いたことのない低くかすれた声。
感じたことのない怒気。
触れられたことのない強い力。
乱暴に手首を掴まれて、店の裏に連れて行かれる。
ズボンからはみ出した白いシャツと、捲り上げられた袖と裾。
その着こなしは間違いなく愛する人のもので……
他の誰でもないのに。
制服の中の人は、蜂楽ではない誰かみたいだった。
「あっ…!」
男の力で乱暴にブロック塀に押し付けられる。
後頭部を塀にぶつけて、頭がグワンとする。
腕で囲まれて、体全体で至近距離の壁を作られた。
「……なに?さっきの。」
感情を捨てた、サイコな眼。
「お前は……俺のモノだよね……?」
初めての、その呼び方。
未知数の恐怖を前にして、脚が震える。