第21章 父と母
「お母さん、コーヒー飲みたくなっちゃった。
ココ寄っていくけど。」
「あ、うん。」
蜂楽家への挨拶は手短に済ませ、その近所にある喫茶店を指差す母。
コーヒーが飲みたかったなら、蜂楽の家に少しでも寄れば良かったのに。
口癖のように“忙しい、忙しい”って言う割に、お店には寄る。
これから私がお世話になる家なのに。
優さんの絵とか人柄にも……興味無さそうだった。
挨拶に行くって言い出した時は、お母さんも変わったのかなって思ったけど……。
“夢ちゃん♡今日はバイバイのチューしないの?”
“ん゛っ!んん゛っ!またね!蜂楽くんっ!!”
去り際、蜂楽にまた一発かまされた。
苦笑いする優さん、涼しい顔のウチの母。
目の前に男子がいて、そんな発言をされたのに……
母は、顔色一つ変えなかった。
今回、アシスタントと生活費の件を承諾してくれたことは感謝してるけど。
母の投げやりな態度に……言いしれぬ不安を感じる。
“K.K.”という店名の喫茶店。
レトロ寄りすぎずモダン寄りすぎず、落ち着けるシンプルな空間。
蜂楽の家には何度か来てるけど、その徒歩5分くらいの場所にひっそりと建つこのお店の存在に初めて気付く。