第21章 父と母
「夢、お前。大丈夫なのか?」
「……まぁ、なんとかやってます。」
どれくらいぶりだろう。
家族が三人揃って、家に集まるのは。
そうだ、思い出した。
一年前……蝉川の件があって以来だ。
「まぁ、私がネット注文した食材もちゃんと使ってるようだし。大丈夫そうじゃない?お父さん。」
大丈夫?簡単に言ってくれる。
尾行された夜、蜂楽が家の前で待っていてくれなければ、私は恐怖に潰されてた。
ひとり娘をここまで放置しといて、母から出てきた言葉に耳を疑う。
「で。尾けられてるって、どういうことだ?」
「……犯人の姿は見てないけど、足音が……。」
「確かなのか?」
「……えと。だから……」
「そうやって口籠る癖。直せと言ったろ?」
「……は、はい。」
「結論から言え。それじゃ大学にも入れない。」
医者は忙しい。
だから、歯切れの悪い喋り方は好まない。
父とは、なんだかうまく喋れない。
私の男性恐怖症は……父が元凶なんだと思う。
記憶を辿るとうっすらと浮かぶ、小さい頃の父。
『こうやってタイミングが合うと、バットの真ん中に上手くボールが当たるぞ!』
『わー!おとうさんすごい!やきゅうせんしゅだ!』
『すごいだろ?お父さんはな、甲子園っていうすごい大会にも出たことがあるんだよ!』
私に野球を教えてくれたあの時のお父さんも
今と同じ、医者だったのにな……。