第3章 ともだちデート
蜂楽に恋人のフリをしてもらうようになってから、一ヶ月が経とうとしていた。
隣に男子がいてくれるというのはとても大きくて、家まで尾けてくるような人の気配もめっきり感じなくなった。
蜂楽は器用にも、私と片手を繋がながら、しかも自分のリュックも背負いながら、サッカーボールを頭や首の後ろに乗せたり、歩きながらドリブルして帰るようになった。
「俺、ずっとボール触ってたい♪」
色々話すうち、生粋のサッカー少年だということも判った。
「今日もありがとう、廻。」
「夢ちゃんのお役に立てれば何よりでございやす♪」
「バイバイ。ボール、気を付けて帰ってね。」
「ういっす。」
毎日の帰りと、週2・3昼休みの生徒会室で会う蜂楽とは、すっかり打ち解けた。
手を繋ぐのも大分慣れたし、誰かとこんなに親密になるなんて思えば初めてだった。
医者である両親に言われるがままに勉強して、学校の成績は常にトップだった。
父も母も、結局は私を医者にしたいらしい。
私を想ってくれてるのか、はたまたその逆なのか。
お陰で、身の丈に合わない夢をいつも追いかけて生きてきた。
食事と家事をひとりで済ませて、毎日予備校のオンライン授業を受ける生活。
生徒会長だって、推薦入試に響くからって両親に言われて就いた。
本当はやりたくない。
NOと言えない自分が嫌い。
だから、自分のことすらアピールできない私に…
本当の友達なんていない。
近寄りがたく思われている、孤独な人間だ。
「俺、夢ちゃんとどっか遊びいきたい。」
その日、玄関ドアに入る直前、蜂楽が言った。