第11章 ビター ✢
「サッカー部ー!!集合しろー!!」
その時、遠くで男子の声が響いた。
その声ではっとする。
自分でも知らないうちに泣いていたらしい。
頬には涙の筋の冷たい感触が残っている。
「……ごめん。俺、どうしたんだろ……。」
我に返った蜂楽は、戸惑いながら私から離れた。
その表情(かお)は、今にも泣きそうだった。
この空模様みたいに。
「……俺、合宿いくよ。」
いつもより低い声が、震えてる。
涙を必死で堪えているような、苦悩に満ちた顔。
俯いて、すぐに前髪で隠された。
「……気を付けて、ね。」
「……たかが合宿っしょ。」
気まずい雰囲気で、蜂楽はグラウンドへ向かった。
サッカー部の男子達の中に混じる彼は
違う人に見えた。
“あの日の蜂楽の行動は‘衝動性’そのものでした。”
試合の日の、蝶野くんの言葉を思い出す。
「……苦いよ。」
蜂楽に噛まれた首筋がひりつく。
食い込む歯の痛みと、ぬるっとした舌の感触。
それに、最後の表情が……頭から離れない。
蜂楽は泣いてしまうと、勝手に思っていたのに。
泣くのを必死に堪えていた、あの表情を───。
「会議……行かなきゃ。」
涙を拭って、乱れたシャツをスカートの中に入れた。
頭の中は真っ白だったのに……
足は不思議と、勝手に生徒会室へ向かっていた。