第11章 可惜夜✿
高専に到着すると、五条先輩は焦る私を無視し、再びお姫様抱っこをして寮の部屋まで運んでくれる。
私をベッドに寝かせた後、髪飾りを取り外してベッドサイドのデスク上に置いてくれた。
先程よりは意識がはっきりしてきたのでお礼を伝えると、
「荷物、置いてくる。おとなしく待ってろ」
そう言って、くしゃりと髪を撫でてくれる五条先輩の手に安心し、私は頷いた。
彼が出ていくドアの音を聞きながら、少しじっとしていると、だんだんと息が落ち着いてくる。
私はノロノロと起き上がると、携帯を開いた。
これから、私は生まれて初めて、大事な人に嘘をつく。
「あ、もしもし……お兄ちゃん?」
「ああ、ゆめ。おかえり。お祭りから帰って来たんだね。ついさっき廊下で悟に会ったけど、用事があるのか、慌てた様子でまた出て行ってしまったな」
「そっか……そういえば、五条先輩はオウチの用事があるみたい……忙しい人、だよね」
「悟は次期当主だからね。色々あるんだろう。ゆめも疲れただろうから、お祭りの話は明日にでも聞かせてくれ」
私を労る声は優しい。
電話越しでも分かってしまう。
傑お兄ちゃんの微笑む表情を思い浮かべて、胸がぎゅっと罪悪感で締め付けられる。
携帯を耳に当てて俯くと、自室のドアの開閉の音が聞こえた。五条先輩が戻って来たようだ。
「うん……おやすみなさい、お兄ちゃん」
私は返答しつつ、傑お兄ちゃんが電話を切ったのを確認してから電話を耳から離した。
もう、後には引き返せない。
ふぅっと息を吐き出すと、私の手から携帯が没収された。ベッドの端に座ったまま見上げると、サングラスを外した五条先輩が立っていた。
「ゆめも相当なワルだな」
その熱っぽい視線を浴びて、体の奥の火種が再度燃え上がる。先輩は私の隣に腰掛けると、私の頬に手を添えた。
→