第1章 Ⅰ*エルヴィン・スミス
こちらを見たまま微動だにしないエルヴィンと、沈黙する空気の居たたまれなさに何か話しかけないと。
『エルヴィン…痩せたね』
第一声がそれとは、早くも自身に落胆する。
「はは…そうだな。前ほどは鍛えていない。は変わらないな」
『そんな事ないよ、筋肉ないもの』
自分の二の腕を摘んでエルヴィンに見せた。
「確かに…、そうだな」
『あ、そう、演奏!すごく良かった!とても素敵だったよ!』
「気に入ってもらえたなら良かったよ」
『別世界にいるような気分だった…』
そう、別世界だ。
声のトーンが落ちてしまった。
「?」
エルヴィンの演奏を聴きに大勢の人が集って、着飾って、聴き入る、別世界の様だった。
夢のような、現実味のない世界だ。
『控室にまでお仕掛けちゃってごめんなさい。エルヴィン…会えて嬉しかった!』
「待ってくれ!」
エルヴィンに左手をとられて、薬指を確認された。
『エルヴィン?』
「…今は何を?」
『ごく普通の、会社員』
「その…、恋人は…」
『いない…、できた事がないの』
ハンジがを見つけたと話を聞いたときに、エルヴィンが席もドレスも全てを用意していた。
しかし恋人がいないとも限らず、もし結婚でもしていようものなら気が狂いそうだったため、全てをハンジに任せていた。
見兼ねたリヴァイがここへ連れてこなければ、2人が会うことは叶わなかったかもしれない。
「できたことが、ない?」
目の前のは前世よりも美しかった。
その彼女に恋人ができた事がないというのは俄に信じられない事だった。
『そう、ないの。全部…あなたのせい』
エルヴィンのせいではないけれど、全部エルヴィンのせいだ。
「それは…」
『10歳の頃から夢を見るようになった。
壁が壊され
私は兵士になり
壁の外で巨人と戦った。
あなたを愛した。
あなたに愛された。
でもあなたは…私をおいて逝ってしまった…』
「もういい、すまなかった」
今まで誰にも話せなかった思いを、本人にぶつけてしまった。
堰をきったように、目からぼらぼろと涙が溢れて、呼吸もままならないほどに心臓が痛んだ。
エルヴィンは堪らなくなりをきつく抱きしめた。